要点
- ヨウ素価は、油脂100 gが吸収するヨウ素のグラム数で、二重結合の数を表します。ココナッツオイルは約8、オリーブオイルは85、亜麻仁油は190です。
- 二重結合は石けんをやわらかくし、酸素が攻撃する場所にもなるため、ヨウ素価が高いと、やわらかく日持ちの短い石けんになるおそれがあります。
- ヨウ素価はどの二重結合も同じ重みで数えますが、リノール酸とリノレン酸の鎖はオレイン酸の鎖よりはるかに速く酸化します。そのため、酸敗は多価不飽和脂肪酸の割合のほうがよく予測できます。
- INS値は鹸化価からヨウ素価を引いた値で、2000年にRobert McDanielが広め、理想値を160としました。互いに関係のない二つの単位を引き算しており、ラウリン酸とステアリン酸を区別できません。
- ココナッツオイルと大豆油を50/50で合わせたブレンドは、INS値の目安に収まりながら、刺激が強く、早く酸敗しやすい石けんになります。
このページの内容
ヨウ素価とINS値は、計算ツールの「石けんの特性」の欄のいちばん下にあります。前者は実験室で油脂について測る値、後者は一人の石けん作家が二つの測定値から作った計算です。このガイドでは、それぞれが何を数えているか、何の役に立つか、どこで誤解を招くかを、実際の油脂で計算しながら説明します。
ヨウ素価は何を測るか
ヨウ素価は、標準法(ISO 3961、AOCS Cd 1-25)の条件で油脂100 gが吸収するハロゲンの質量を、ヨウ素に換算して表したものです。ハロゲンは炭素–炭素二重結合に、一つの結合につき一分子ずつ付加するので、この値は単位質量あたりの二重結合の数を表します。完全に飽和した油脂はゼロに近い値になります。
測定にはウィイス(Wijs)試薬、つまり酢酸に溶かした一塩化ヨウ素を使い、十九世紀の終わりから使われています。油脂を溶媒に溶かし、計量した過剰量の試薬を加え、フラスコを暗所に一時間置きます。ヨウ素価が150を超える油脂や共役酸を含む油脂なら二時間です。次にヨウ化カリウムで残った試薬をヨウ素に変え、デンプンを指示薬としてチオ硫酸ナトリウムで滴定し、油脂を入れない空試験と並べて測ります。その差が、二重結合が取り込んだ量です。
二重結合は一つにつき一分子を取り込むので、ヨウ素価は脂肪酸組成から計算することもできます。トリグリセリド中の鎖は、パーセントポイントごとに決まった量のヨウ素価を加えます。オレイン酸0.860、リノール酸1.732、リノレン酸2.616、パルミトレイン酸0.950、ひまし油のリシノール酸0.816です。純粋なトリオレインなら86.0、トリリノレインなら173.2、トリリノレニンなら261.6になります。ISO 3961は、AOCS Cd 1c-85から採った同じ計算を附属書に載せています。
コーデックス規格の組成の中央にあるオリーブオイル、つまりオレイン酸69%、リノール酸12.3%、リノレン酸0.6%、パルミトレイン酸1.9%なら、59.3 + 21.2 + 1.6 + 1.8にわずかな端数を足して84.1となり、実測範囲の75〜94に収まります。ひまわり油で同じ計算をすると129.6で、実測値は118〜141です。
| 油脂 | ヨウ素価(公表範囲) | 計算ツールが使う値 | INS値(鹸化価 − ヨウ素価) |
|---|---|---|---|
| ココナッツオイル | 6.3〜10.6 | 8.5 | 248 |
| パーム核油 | 14.1〜21 | 17.6 | 224 |
| カカオバター | 33〜42 | 37.5 | 156 |
| 牛脂 | 40〜53 | 46.5 | 150 |
| パーム油 | 50〜55 | 52.5 | 147 |
| シアバター | 30〜75 | 52.5 | 131 |
| ラード | 55〜65 | 60 | 138 |
| オリーブオイル | 75〜94 | 84.5 | 106 |
| ハイオレイックひまわり油 | 78〜90 | 84 | 104 |
| ひまし油 | 83〜88 | 85.5 | 94 |
| キャノーラ油(低エルカ酸菜種油) | 105〜126 | 115.5 | 72 |
| ひまわり油 | 118〜141 | 129.5 | 62 |
| 大豆油 | 124〜139 | 131.5 | 61 |
| 亜麻仁油 | 170〜211 | 190.5 | 1 |
範囲は、コーデックス規格と、各油脂のページに挙げたほかの一次資料によるものです。計算ツールは、どちらの値にも各範囲の中央値を使います。
ヨウ素価が高いと石けんがやわらかくなる理由
天然の形の二重結合は鎖を折り曲げ、曲がった鎖はすき間なく詰まることができません。そのナトリウム石けんは溶けやすく、水分を長く保つので、それで作った石けんはやわらかく、固まるまでに時間がかかります。ヨウ素価は実質的にこの曲がりの数を数えたもので、そのためコンディショニングの数値と連動して上下します。
ブレンドのヨウ素価は、各油脂の値を重量で加重平均したものです。オリーブオイル、ココナッツオイル、パーム油を40/30/30で合わせた定番の石けんなら、0.4 × 84.5 + 0.3 × 8.5 + 0.3 × 52.5で52です。計算ツールは41〜70を一般的な範囲として網掛けしていますが、これは趣味の計算ツールから受け継いだ慣例で、裏付けとなる研究は当サイトの知るかぎりありません。定番の硬い油脂はこの範囲に収まり(牛脂46.5、パーム油52.5、ラード60)、オリーブオイルは上回ります。これはカスティール石けんがなかなか固まらないことと一致します。ただし、ヨウ素価は硬さそのものではありません。ココナッツオイルは8ですが、その石けんは硬いのに水に速く溶けます。これは鎖の長さの問題で、ヨウ素価には見えません。
酸敗の警告になる理由と、誤解を招くところ
酸化は二重結合から始まり、とりわけ二つの二重結合にはさまれた炭素で起こります。この炭素の水素は外れやすいからです。オレイン酸にはそうした炭素がなく、リノール酸には一つ、リノレン酸には二つあります。古典的な測定では、二重結合が一つ増えるごとに酸化速度は少なくとも二倍になり(Holman and Elmer, 1947)、後の研究では、酸化のされやすさがこのはさまれた炭素の数に応じて高まることがわかりました(Cosgrove et al., 1987)。石けんの中の鎖は油脂が持っていた鎖そのもので、同じように酸化します。古い石けんの酸敗臭やオレンジスポットは、一般にこの反応によるものとされています。
ヨウ素価は、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸の鎖を、二重結合一つにつき一として、1:2:3の比で数えます。しかしリスクはそのようには増えません。オレイン酸には酸化されやすい炭素がなく、リノール酸には一つあるので、大きいのはオレイン酸からリノール酸への一歩です。ヨウ素価は、オレイン酸の多い油と多価不飽和の油の差を小さく見積もってしまいます。
現実的な組み合わせで見てみます。牛脂と大豆油を70/30で合わせたブレンドのヨウ素価は72で、オリーブオイルの85より低いのに、リノール酸とリノレン酸はオリーブオイルの13%に対して約22%あり、酸化されやすい炭素は約二倍です。日持ちについて、ヨウ素価は二つの順位を逆に付けてしまいます。石けんがどれだけもつかは、計算ツールの脂肪酸組成にあるリノール酸とリノレン酸の割合で判断し、ヨウ素価は補助的な目安にしてください。
古い石けんに出たオレンジスポット:不飽和の鎖の酸化で、リノール酸とリノレン酸が多いところで最も起こりやすくなります。
どちらの数値も、日持ちを決めるほかの要因は見ていません。レシピに入れた酸化防止剤やキレート剤、入れたときの油脂の鮮度、スーパーファットで残る遊離した油の量、石けんを涼しく暗く乾いた場所で保管しているかどうか。これらは酸化防止剤とキレート剤のガイドと熟成と保管のガイドで扱っています。
INS値:鹸化価からヨウ素価を引いた値
INS値は、各油脂の鹸化価からヨウ素価を引いた値を、ブレンド全体で重量により平均したものです。Robert McDanielが『Essentially Soap』(2000年)で、硬く長持ちする石けんを一つの数値で表すものとして石けん作りの人たちに広め、理想値を160前後としました。計算ツールは136〜165を網掛けしています。Anne Watsonの『Smart Soapmaking』は、新しいブレンドの簡単な確認として、約145〜160の範囲を、固形の油脂を40%以上にすることと合わせて使っています。
ある程度まで役に立つのは、二つの項が同じ方向を向いているからです。鹸化価が高いことは、ラウリン酸やミリスチン酸のような短い鎖を意味し、その石けんは硬くなります。ヨウ素価が低いことは飽和した鎖を意味し、その石けんも硬くなります。そのため硬い油脂は高い値になり(ココナッツオイル248、パーム核油224、カカオバター156、牛脂150)、やわらかい不飽和の油は低い値になります(オリーブオイル106、ひまわり油62、亜麻仁油1)。
40/30/30の定番の石けんでは、0.4 × 105.5 + 0.3 × 248 + 0.3 × 147で161となり、McDanielの理想値とほぼ一致します。石けん作りで最も繰り返し作られている初心者向けレシピの一つがそうなるわけです。
INS値からわからないこと
単位が引き算できません。鹸化価はグラムあたりのKOHのミリグラム数、ヨウ素価は100 gあたりのヨウ素のグラム数です。一方から他方を引くのは便宜上の計算で、結果に物理的な意味はありません。リノレン酸の鎖だけでできた油脂なら−69になります。
ラウリン酸とステアリン酸を区別できません。どちらもINS値を上げますが、理由は異なり、できる石けんもまったく違います。オリーブオイルとココナッツオイルを70/30で合わせたブレンドは148、牛脂だけなら150とほぼ同じですが、前者はすぐに泡立って洗浄力が強く(洗浄力20、硬さ36)、後者はすぐに立つ泡が少ない、硬くクリーミーな石けんです(洗浄力4、硬さ52)。
定番の石けんを失敗と判定してしまいます。オリーブオイルだけなら106で目安から大きく外れますが、カスティール石けんは現存する最も古い石けんの一つです。
よくないレシピを合格にしてしまうことがあります。ココナッツオイルと大豆油を50/50で合わせたブレンドはINS値154で、ヨウ素価70は目安の上限、硬さとコンディショニングはどちらも47で、それぞれの目安に余裕で収まります。それでも、洗浄力は一般的な12〜22に対して34と刺激の強い石けんで、脂肪酸の31%以上がリノール酸とリノレン酸なので日持ちもよくありません。
INS値が合格とするレシピ。ココナッツオイル500 gと大豆油500 gをスーパーファット5%で作ると、水酸化ナトリウムは151.9 g、INS値は154ですが、洗浄力は34のままです。
計算ツールで開く油脂以外は何も見ていません。ほかの特性の数値と同じく、INS値はスーパーファット、水、熟成、添加物をすべて無視しています。
二つの数値の使い方
ヨウ素価はやわらかさの尺度と日持ちについての最初の警告として読み、次に、酸敗をより直接に予測するリノール酸とリノレン酸の割合を確認します。INS値は大まかな目印として読みます。非常に低ければ、おもに不飽和の油でできた、やわらかく固まるのが遅い石けんを意味し、非常に高ければラウリン酸系の油が多いことを意味するので、次に洗浄力を見ます。どちらもそれ自体が目標ではありません。ちょうど160になるように組んだレシピは、ココナッツオイルの石けんと牛脂の石けんを区別できない数値に合わせて組まれたものです。レシピ設計のガイドは、そうではなく、その石けんを何に使うかから始めます。
出典
これらの出典に関する注記は英語のページにあります。各文書と照合したときの文言のまま掲載しています。
- ISO 3961:2018 Animal and vegetable fats and oils: Determination of iodine value . International Organization for Standardization , 2018.
- AOCS Official Method Cd 1-25, Iodine Value of Fats and Oils, Wijs Method . American Oil Chemists' Society .
- Atomic weights of the elements 2013 . IUPAC, Pure and Applied Chemistry 88(3) , 2016.
- Standard for Named Vegetable Oils (CXS 210-1999) . Codex Alimentarius Commission (FAO/WHO) .
- Standard for Olive Oils and Olive Pomace Oils (CXS 33-1981) . Codex Alimentarius Commission (FAO/WHO) .
- Standard for Named Animal Fats (CXS 211-1999) . Codex Alimentarius Commission (FAO/WHO) .
- The rates of oxidation of unsaturated fatty acids and esters . R. T. Holman and O. C. Elmer, Journal of the American Oil Chemists' Society 24 , 1947.
- The kinetics of the autoxidation of polyunsaturated fatty acids . Cosgrove J. P., Church D. F., Pryor W. A., Lipids 22 , 1987.
- Essentially Soap . Robert S. McDaniel, Krause Publications , 2000.
- Smart Soapmaking: The Simple Guide to Making Traditional Handmade Soap . Anne L. Watson, Shepard Publications , 2013.