要点
- トレースの加速とは、生地が予定より速くとろみを増すことです。急激な固化(シーズ)はその極端な形で、数秒で固い塊になります。ライシングは、まだ流れる生地にできる硬い粒です。
- 引き金はたいてい香料です。クローブやシナモンリーフの精油の主な香気成分であるオイゲノールは、最もよく測定されている原因で、フローラル系やスパイス系のフレグランスオイルの多くも同じように振る舞います。
- 熱、少ない水、固形の油脂、スティックブレンダーは、どの香料の場合もトレースを速めます。
- 作業の途中なら、ブレンダーを止め、手で混ぜ、生地を型に入れます。鍋の中で固まったら、ホットプロセスとして加熱します。
- シーズやライシングを起こした石けんも、固まればたいてい問題ありませんが、先に検査してください。むらに固まったバッチは、苛性ソーダを隠していることがあります。
このページの内容
コールドプロセスの石けんのバッチの多くは、予定を立てられるペースでとろみを増していきます。スティックブレンダーで一、二分混ぜて乳化させ、それから色付け、スワール、型入れの時間があります。ところがときどき、バッチがずっと速く進み、予定していたスワールが、容器の中で固まる前に生地を型に入れる競争に変わることがあります。このガイドでは、そうなる三つのパターン、それぞれの原因、目の前のバッチをどうするか、そして香料をローフ一本分に使う前に、それが同じことを起こすかどうかを確かめる方法を扱います。
生地が暴走する三つのパターン
- トレースの加速。 生地が予定よりずっと速く、一、二分で水っぽい状態からプリン状までとろみを増しますが、まだ流したりすくったりできます。
- 急激な固化(シーズ)。 極端なケースです。数秒のうちに、多くは香料を入れた直後に、生地がぼそぼそした粘土のような塊に固まり、流し込めなくなります。シーズを起こした生地は、たいていその後型の中で熱くなります。Soap Queenは、シーズと熱は一緒に起こると指摘しています。筋が前触れになることもあります。Susan Miller Cavitchは、合成のフレグランスオイルのほうが、バッチを「筋が出始めてから突然シーズさせやすい」(“more prone to begin streaking and then suddenly seize”)ことに気づいています。
- ライシング。 生地はまだ流れる状態なのに、米粒やタピオカのような小さな硬い粒が現れます。粒のまわりに油の膜ができることもあります。
ライシング:生地はまだ液体ですが、香料が一部を小さな硬い粒に変えています。
一見すると似ている問題がほかに二つあり、どれなのかを見分けることが大切です。
| 始まるとき | 見た目 | まだ流し込めるか | |
|---|---|---|---|
| トレースの加速 | いつでも。多くは香料を入れた直後 | なめらかだが、急速にとろみが増す | はい、急いで |
| 急激な固化(シーズ) | 香料を入れて数秒後 | 硬くぼそぼそし、鍋の中で固まる | いいえ。型に押し込む |
| ライシング | 香料を入れた後 | 流れる生地の中に硬い粒 | はい、混ぜてなめらかにしてから |
| 偽トレース | 苛性ソーダ水溶液を加えて一分以内、香料を入れる前 | ざらざら、またはぽろぽろ。冷えた生地の中で固形の油脂が固まったもの | まず、なめらかになるまで混ぜ続ける |
| 分離 | いつでも | 表面に油がたまる | いいえ。分離を参照 |
偽トレースはトレースのガイドで扱っています。この中で、石けんに腐食性の苛性ソーダだまりを残しうるのは分離です。
鍋の中で起きていること
トレースとは、石けんができていき、油脂と苛性ソーダ水溶液を安定した乳化状態に保つことで、生地にとろみがつくことです。鹸化を速めるもの、あるいはできたての石けんを早く固めるものは、どれも作業できる時間を短くします。
その一部は測定されています。Kevin Dunnは石けん生地の粘度を一分ごとに記録し、温度が高いほど、水が少ないほど、そしてクローブ精油の主な香気成分であるオイゲノールが多いほど、粘度が速く上がることを確かめました。彼のグラフでは、同じ生地が粘度の目盛りの上限に達するまで、60 °Cでは約五分、40 °Cでは二十分以上かかりました。それ以前の研究では、自然にはトレースが出ないオリーブオイルの石けんにトレースを出させるため、わざとクローブ精油を加えています。彼の講演では、飽和脂肪は不飽和の油より速く鹸化すること、そして香料や添加物は反応の速さとローフの最高温度の両方を上げうることも指摘されています。
オイゲノールは、精油の大部分を占めることがあります。当サイトの香料データが使っているIFRAの典型的な含有量の表では、クローブバッド精油の約82%、クローブリーフ精油の85%、シナモンリーフ精油の74%、西インドベイ精油の51%がオイゲノールです。名前の似た二つはまったく違います。シナモンバーク精油は約2%、ローレル(月桂樹)の精油は約1%しか含みません。ただし、オイゲノールが少なければ石けんに使っても安全というわけではありません。Cavitchは、生地を過剰に反応させる精油としてクローブと並べてカシアを挙げていますが、カシアの主成分はシンナムアルデヒドで、SimmonsとAppletonが記しているグレードではアルデヒドが70〜85%です。
オイゲノールや、かなり多くのフローラル系・スパイス系の香料がなぜこうなるのかは、私たちの調べたかぎり、文献ではまだ解明されていません。その代わりに作り手が持っているのは実績です。毎回トレースを速める香料があり、コールドプロセスの石けんで試験している仕入先は、そのことを説明に書いています。
関連するケースで、よくわかっているものが一つあります。ステアリン酸のような遊離脂肪酸は、油脂なら何時間もかかるところを、数秒で苛性ソーダと反応します。単に酸が塩基と出会うだけだからです。油脂に溶かし込んだステアリン酸で生地がほとんど一瞬で固まることがあるのはそのためで、Catherine Failorが透明石けんの本で、ステアリン酸をトレースの後に別に加えているのもそのためです。分解し始めた古い油脂は遊離脂肪酸を多く含み、同じように速く反応します。SimmonsとAppletonは1908年に、工場のコールドプロセス石けんの多くの欠陥の原因を、そうした油脂にたどっています。遊離酸があまりに速く石けんになるため粒ができ、濃い苛性ソーダがそれを溶液から押し出して、バッチを「濃くざらざらに」(“thick and gritty”)してしまうのです。
ライシングにも、測定に基づく説明はありません。Soap Queenは、香料に含まれる成分がレシピの硬い油脂と結びついて小さな粒を作るものと説明しています。これは実験室ではなく経験から来た説明ですが、作り手の観察には合っています。ライシングは、硬い油脂やバターの多いレシピでよく起こり、やわらかい油のレシピではまれです。
バッチが速く進みすぎる原因
| 原因 | 理由 | 変えること |
|---|---|---|
| コールドプロセスで実績のない香料 | オイゲノールの多い精油(クローブ、シナモンリーフ、西インドベイ、オールスパイス)や、フローラル系・スパイス系のフレグランスオイルの多くはトレースを速める。Modern Soapmakingは「オゾン」系の香りもリストに加えている | 仕入先のコールドプロセスについての説明を読み、少量のバッチで試し、最後に手で混ぜ込む |
| 熱い生地 | 熱は鹸化を速める | Modern Soapmakingは作業時間を確保するため約43 °C(110 °F)未満に保ち、Soap Queenは約49 °C(120 °F)で作り、それより熱い生地は加速すると警告している。加速するとわかっている香料なら、室温で作る |
| 水が少ない | 濃い苛性ソーダ水溶液はトレースが速く、熱くなる | 水分カットをしない。Modern Soapmakingは、時間を最大限確保するには25〜33%の苛性ソーダ水溶液を勧めている |
| 飽和脂肪が多い | 飽和脂肪は速く鹸化する。Modern Soapmakingは、脂肪酸の約半分を超えるとトレースが速くなるとし、Faiolaはパーム核油が15%を超えると加速すると見ている | 固形の油脂の一部をオリーブオイルかハイオレイックひまわり油に替える |
| ポマースオリーブオイル | CavitchもFaiolaもトレースが速いとしており、Cavitchは香料の作用を誇張するとしている | 代わりに精製オリーブオイルを使い、計算ツールでレシピを計算し直す |
| トレースで加える冷たいミルク | 硬い油脂を冷やし、加速に見える偽トレースを起こす | 先に少し温める。Faiolaはミルクを約29 °C(85 °F)で加えている |
| ステアリン酸、古い油脂 | 遊離脂肪酸は数秒で反応する | ステアリン酸は溶かしてトレースの後に加えるか、入れない。油脂は新しいものを使う |
| はちみつ、糖分、アルコールを含む液体 | 熱を加える | はちみつはライトトレースで混ぜ込む。ビール、ワイン、ジュースは石けんに使う液体を参照 |
| クレイと一部の顔料 | 生地にとろみをつける | クレイは入れる前に少量の水に分散させる |
| スティックブレンダー | 使う一秒ごとにトレースが進む | 短く断続的に。DeeAnna Rouseは2〜3秒を三、四回、間に手で混ぜる。香料はスティックブレンダーで混ぜ込まない |
温度と水の数値は、名前を挙げた出典での作り手の作業範囲で、測定された限界値ではありません。
作業の途中で起きたら
生地が加速している
スティックブレンダーを置き、へらで手で混ぜます。凝ったデザインはあきらめます。シンプルな流し込みや表面に凹凸をつけたトップならまだ間に合いますが、繊細なスワールは無理です。今すぐ生地を型に入れ、型を作業台に軽く打ちつけて落ち着かせます。熱が余分に出ると見込んで、タオルはかけず、ひび割れが出ないかローフを見守ります。盛り上がり始めたときの対処は過熱のガイドで扱っています。
シーズを起こした
急いで作業します。へらで生地を型にすくい入れ、角まで押し込んで空気を抜き、型を何度か打ちつけます。見た目は素朴な仕上がりになり、熱くなるので、保温はしません。
固まりすぎて型に入れられないなら、加熱します。ステンレスの鍋に、三分の一以下になるようにこそげ入れ、中弱火で温め、マッシュポテトのようなゼラチン状の塊になるまで頻繁に混ぜます。Anne-Marie Faiolaの救済法では、これに15〜60分かかります。Soap Queenは、作ってから約24時間以内のバッチならこの方法が使えるとしています。その後、石けんを型に押し込みます。できたのはホットプロセスの石けんで、その先はホットプロセスのガイドで説明しています。
ライシングを起こした
スティックブレンダーを短く断続的に使い、粒をなめらかにします。Soap Queenによれば、粒はたいてい混ざって戻りますが、そうなるにつれて生地にとろみがつくので、型を準備しておきます。粒が残ると後で現れます。Faiolaは、ライシングを起こした石けんでは、熟成後の石けんにあばたのような穴や油のたまりが残ることがあるとしています。粒が消えない場合や、粒のまわりに油がたまり始めた場合は、バッチが分離しかけています。流し込まずに上と同じ方法で加熱し、やわらかい石けんのガイドの分離の項を読んでください。
新しい香料を試す
あるレシピでおとなしい香料が、別のレシピでは暴走することがあります。そのため、実際に使うつもりのレシピで、実際に使う温度と水の量で試してください。Soap Queenは1 lb(454 g)のバッチで香料を試し、Faiolaは一ポンド以下を勧めています。
- 実際のレシピで少量のバッチを作ります。 水、スーパーファット、苛性ソーダ濃度はそのままで、油脂約500 gに縮小します。
- いつもの条件に合わせます。 同じ作業温度、同じスティックブレンダー、同じ部屋で行います。いつもより熱い、あるいは冷たい条件で試しても、わかることはほとんどありません。
- 使う予定の割合で香料を量ります。 仕入先が示す石けんでの上限と照らし合わせてください。使用量と上限は香りづけのガイドで扱っています。
- 乳化するまでブレンダーで混ぜ、香料は手で混ぜ込みます。 ライト、ミディアム、ヘビートレースに達するまでの時間を計り、粒、油の膜、急な発熱がないか見ます。
- 型に流し、観察を続けます。 一、二時間後に型を見て熱やひび割れがないか確かめ、その後一週間、石けんをもう一度見てください。バニラ系の香料は、熟成中に石けんを茶色に変えます。
- 書き留めます。 香料、仕入先、ロット、割合、温度、時間。この記録があるから、実際のサイズのバッチの結果を予測できます。
500 gの試しのバッチ。定番の三種の油脂500 gには、33%の苛性ソーダ水溶液で水酸化ナトリウム72.1 gと水146.3 gが必要です。油脂の3%の香料は15 gです。
計算ツールで開く加速するとわかっている香料を使う
加速する香りをあきらめる必要はありません。香料が働きかける相手を減らせばよいのです。
- 反応の後に入れます。 ホットプロセスの石けんでは、苛性ソーダが使い切られた加熱の後に香料を入れるので、加速させるものがありません。Failorも透明石けんについて同じことを述べています。香料を入れるころには、油脂と苛性ソーダの反応は終わっています。リバッチも同じです。
- 低い温度で、水を減らさずに作ります。 苛性ソーダ水溶液と油脂は室温にし、苛性ソーダ水溶液はいつもの範囲の薄いほうにします。Anne Watsonは、加速することで知られる香料には、自分の計算ツールの範囲で最も多い水を使っています。
- 薄めて、遅く加えます。 Soap Queenは、香料をレシピの液体油の同じ重さと混ぜてから加えます。Watsonは、香料を冷たく保ち、生地にとろみがつき始めたばかりのときに加えるという助言を紹介していますが、自分ではそうした香料を避けるか、リバッチ用に取っておいています。どちらの場合も、手で混ぜ込んでください。
- 混ぜる時間は短くします。 Cavitchは、ライトトレースで精油を垂らし入れ、「二十〜三十秒、あるいは必要最小限の時間」(“for twenty to thirty seconds, or as little time as needed”)混ぜます。「混ぜすぎると筋やシーズが起こる」(“too much stirring causes streaking and seizing”)からです。
- デザインはシンプルにし、型は準備しておきます。 一色のローフか表面に凹凸をつけたトップにし、香料を入れる前に、必要なものをすべて手の届くところにそろえておきます。
試してみたいレシピ
すべてのレシピ出典
これらの出典に関する注記は英語のページにあります。各文書と照合したときの文言のまま掲載しています。
- Trace Analysis . Kevin M. Dunn, lecture to the Handcrafted Soapmakers Guild , 2010.
- The 'Water Discount' . Kevin M. Dunn, The Handcrafted Soapmaker 2008-2 , 2008.
- Time and Temperature in Soapmaking . Kevin M. Dunn, lecture to the Handcrafted Soapmakers Guild , 2009.
- Transparency and Meltability in Hot-Process Soap . Kevin M. Dunn, lecture to the Handcrafted Soapmakers Guild , 2012.
- IFRA Standards, 51st Amendment: Annex on contributions from other sources . International Fragrance Association , 2023.
- Making Transparent Soap . Catherine Failor, Storey Publishing , 2000.
- Smart Soapmaking . Anne L. Watson, Shepard Publications , 2013.
- Soap Crafting . Anne-Marie Faiola, Storey Publishing , 2013.
- Pure Soapmaking . Anne-Marie Faiola, Storey Publishing , 2016.
- The Natural Soap Book . Susan Miller Cavitch, Storey Publishing , 1995.
- The Handbook of Soap Manufacture . W. H. Simmons and H. A. Appleton, Scott, Greenwood & Son (Project Gutenberg edition) , 1908.
- Soap Behaving Badly . Soap Queen (Bramble Berry) , 2014.
- Controlling Trace in Cold Process Soapmaking . Kenna Cote, Modern Soapmaking .
- Trace and stick blender basics . DeeAnna Rouse, Classic Bells .